コラム

子どもに生きる、保育者に生きるドキュメンテーションのススメ ~中野区立丸山保育園の実践がドキュメンテーションの新たな地平を拓く~【第1回】    

寄稿/佐藤康富(東京家政大学短期大学部 教授)

●プロフィール/佐藤康富(さとう やすとみ):東京家政大学短期大学部 教授。川崎市子ども・子育て会議 委員。著書に『写真とコメントを使って伝えるヴィジブルな保育記録のススメ』(鈴木出版)、『探究心を育む 保育内容「環境」』(大学図書出版)など。

1. 様々な可能性を広げるドキュメンテーション

多くの園で制作されているドキュメンテーションは子どもの姿や保育の様子を保護者に発信するツールとして利用されていることが多いのではないだろうか。

ここで紹介する、東京都中野区の区立丸山保育園でのドキュメンテーションの実践は、その役割を超え、新たなツールとして活かされている。

まず、子ども自身が自分の可能性を広げ、生きる自信を育む、その有効なツールとしてドキュメンテーションが活かされている例を見ていきたい。

2. 子どものウェルビーイング  子ども自身が作るドキュメンテーション!

わが国で、子どもがドキュメンテーションを自ら作る事例は稀であるといってよいのではないだろうか。

丸山保育園では、ドキュメンテーションを保護者に発信するだけでなく、子どもと共有することを心がけている。

***

年長児たちが大好きな絵本があった。

ある時、その中に登場する“かっぱおやじ”から、いろいろな行事のたびに手紙が届くようになる。やがて、かっぱおやじは、すっかりクラスの一員のような存在になる。

秋の行事ではクラスの出し物として「かっぱジャングル」を作ることになった。

B 君はクラスの集団活動にはなかなか乗り気になれずにいたが、行事に向けてクラスの仲間がそれぞれ道具作りに夢中になっている様子に次第に感化されていく。

そんなある日、B 君が突然かっぱの歌を口ずさみ始めたのである。

何度もくり返し歌っている姿を見て、「これは鼻歌ではない、作詞・作曲したものなんだ!」と担任はハッとした。

そこで担任が B君の言葉を採取し、メロディーを文字で表現した〈ドキュメンテーション4〉。

このかっぱおやじのテーマソングは、その後の劇ごっこの全員歌唱で保護者にも披露することができた。

もちろん、子どもが作るドキュメンテーションはその遊びの到達点ではない。

白井(2025年)は、ロジャー・ハートの「主体性を発揮する梯子モデル」を示して、その子どもと教師のかかわりのバリエーションの豊かさが重要であることを述べている。つまり、ここでの子どもの変容は、突然現れてくるものではない。丸山保育園の保育者たちがドキュメンテーションと格闘したその物語が育んだのである。

保育者自身、はじめは手探りの状態で、だれもが「ドキュメンテーション⁉」と半信半疑からのスタートであった。

しかし、この歩みにこそドキュメンテーションが活きるキーがあるのだ。

注1:マーガレット・カー ワイカト大学名誉教授。ニュージーランドの教育学者

注2:ロジャー・ハート ニューヨーク市立大学 教授。子どもの権利や心理学に関する研究者

 〈【第2回】につづく〉

協力/中野区立丸山保育園 

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