執筆:青山誠
事例:上町しぜんの国保育園
海外から転園してきたUさん。数か月たち、次第に日本語でのコミュニケーションも増えてきた。しかし周りの子たちと比べると、まだまだ関係性は薄く、特に5歳児だけで行う遊びにはあまり気乗りしない様子。この日もミーティングでみんなが「ザリガニ釣り」の話題で盛り上がる中、明らかにつまらなそうにしているUさん。そこで、井上(あさみ)さんがミーティングで問いかけてみることにしました。
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ザリガニを釣るには何があればいいか、手でふれられない時どうしたらいいか、を話している。私はUさんの隣にいたが、Uさんはずっと「ざりがにつり、いきたくなぁい〜」と言っている。公園にはUさんが好きそうな新幹線の遊具もあり、その写真を見せてみたけど、「いかない〜、ひとりであそびたい。ママとパパがいい」と。Uさんのことをみんなにも伝える。
あさみ「Uさんがザリガニ釣り行きたくないって言ってるんだけど、あさみはUさんとも行きたいんだよね、どうしたらいいかな」
「なんでいやなの?」「ざりがにきらいなのかな?」「じゃあUさんだけ、のこる?」
みんないろいろ声を出す。
まみ(保育者)「Uさん、前に別の公園に行った時、楽しそうだったよ。あの時も最初は『いかない』って言ってた」
あさみ「……途中で気持ちが変わったの? 最初は『いきたくないー』だったけど、だんだんだんだん『たのしいー!』に変わったってこと?」
Uさん、ウンウンとうなずく。
まみ「じゃあザリガニ釣りも、途中で楽しくなるんじゃない?」
Uさん「ざりがにつりは、いやだー」
ザリガニが嫌だっていうのは理由づけで、このメンバーで遠足に行くことが嫌なんだという感じ。
あさみ「ここにいるみんなとは行きたくないの?」
Uさん、眉を下げながらうなずく。
あさみ「Uさんはママとパパとなら行きたいけど、みんなとは行きたくないんだって。それってママとパパのことは好きだけど、Uさんはみんなのこと……」
「嫌いなの?」って聞こうとしてやめた。代わりの言葉が思い浮かばない。嫌いって言葉は強すぎる気がした。Uさんとみんなとの関係をつくっていきたいのに、嫌いと言葉にしたら線が引かれすぎてしまう。けど、みんなが何気なく過ごしている毎日の中で、Uさんが「ひとりぼっち感」を感じているとしたら、そのUさんの気持ちには出会ってもいいんじゃないかと思って、ここまで口にしてしまった。(井上記)

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自分の気持ちを言葉にして伝え合い、子どもと共に保育をつくっていく、それはミーティングの醍醐味とも言えるでしょう。ただ、遊びを楽しそうに盛り上げる一方で、それに気乗りしない子のことも忘れずにいたいと思っています。「みんなが楽しそうにやっていること」に対して、自分は「ちがう」と言うことはとても勇気のいることですから。
さてさて、Uさんの「いきたくない」に対して、どのような対話が展開されていくのでしょう。続きはまた次回……。
イラスト:ナガタヨシコ(https://www.instagram.com/nagata445)
<編集部より>
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96ページ 26×18㎝
ISBN 978-4-577-81571-7 108-34

