◆ 毎回、これからの変化のきっかけにつながるかもしれない保育に関する様々な事柄を取り上げながら、独自の視点から分析します。
東京都は、「こども誰でも通園制度」(乳児等通園支援事業)の東京都版とも言える「多様な他者との関わりの機会の創出事業」を実施していますが、来年度から国の「こども誰でも通園制度」が本格実施されることを踏まえて、国が1階部分、都が2階部分となる“2階建て方式”で未就園児の受け入れを行うことになりそうです。
2023年度から始まった都の「多様な他者との関わりの機会創出事業」は、未就園児を定期的に預かり、「多様な他者との関わりの中での様々な体験や経験を通じて、非認知能力の向上等、子供の健やかな成長を図ることを目的」とした事業です。
実質的には、「こども誰でも通園制度」とほぼ同じ内容ですが、都の事業のほうが未就園の受け入れ可能時間が長く、しかも都が10分の10補助を行うため区市の負担はないという特徴があります。そのため、都内の区市においては、国の事業より都の事業を実施するところが多いのが実情です。
これが来年度からは、国の「こども誰でも通園制度」が給付制度として本格実施されることから、これを基礎部分として、そこに都の事業を上乗せした“2階建て方式”とすることになりそうです。そうなれば、3歳未満の未就園児の受け入れについて、東京都だけが突出して恵まれた中身になるため、都外の周辺自治体からは不満の声が上がりそうです。
改めて都の事業を見てみると、設備や人員基準については国の事業とほぼ同じで、一時預かり事業の基準が適用される一方、利用可能時間は国の月10時間を大幅に超えて最大で月160時間の利用が可能になっています。
実施施設に対する補助についても、年間受入日数に応じた運営費補助が1施設当たり796.8万円(104日以下の場合)、1239.8万円(105~208日の場合)、1459.6万円(209日以上の場合)と充実しており、国の事業に比べてかなり高くなっています。
加えて、事業実施に必要な改修や備品購入費などの開設準備経費(1施設当たり400万円)をはじめ、要支援家庭等対応強化加算、障害児等の受入れ支援、医療的ケア児の受入れ支援など、手厚い補助が行われます。
さらに驚くのは、利用料に対する考え方です。都では、今年9月から3歳未満児の保育料を第1子から無償化しているため、1階部分の国の事業についても無償化する方針です。2階部分の取り扱いは現時点で不明ですが、無償化される可能性もあります。
ちなみに、現在の都事業の利用料については、日額制と月額制が設定されていて、負担の上限は日額が2,200円(1日8時間利用の場合)、月額が4万4,000円(1か月160時間利用の場合)となっています。ただし、1日8時間の上限を超える場合は、1時間当たり275円が上限とされていて、例えば1日に11時間利用する場合の上限額は3,025円となります。
利用時間についても、利用料金についても、実施施設に対する補助金についても、国の事業に比べて都の事業のほうが圧倒的に充実しており、都内区市における未就園児の受け入れはかなり進むのではないかと考えられます。また、都事業の場合、有資格者の割合は6割以上とされ、国事業の5割(一般型)よりやや高く設定されていますが、それにしたところで緩やかな基準であることに違いはありません。
そう考えると、定員割れが進みつつある小規模保育所や認証保育所、あるいはビジネスチャンスと捉えている株式会社系の保育施設などが、都の事業に積極的に乗り出してくる可能性も高いのではないかと見られています。逆に、定員がほぼ埋まっている保育所等は、人材難の問題もあって対応が後手に回るかもしれません。
いずれにしても、来年度からは東京都の未就園児対応事業が全国の中でも抜きん出た形で実施されることになり、その余波がどこに、どのように及ぶのか注目されます。特に、3歳未満の未就園児の育ちや、在宅子育て家庭の孤立防止・育児不安軽減などにどうつながっていくのか、エビデンスベースでの検証が待たれます。
★「保育ナビWebライブラリー」保育のいまがわかる!Webコラム 吉田正幸の保育ニュースのたまご vol.136(11月15日号)で配信した記事です。
★「保育ナビwebライブラリー」では、1か月早くお読みいただけます。

