
執筆/首藤久義
プロフィール:千葉大学名誉教授。『はじめてつかう漢字字典』の編著者。
「あぬめ」の中に「女」
ひらがなの「あ」と「ぬ」と「め」の中に、漢字の「女」が1つずつ入っています。
見つかるかな?
1 「あ」の中に「女」
(1)「あ」の中に「女」
「あ」の中に「め」があると聞(き)いて、え?!と思(おも)う人がいるかもしれません。
でも、あるんですよ。
つぎの赤(あか)と黒(くろ)で色分(いろわ)けした「あ」を見てください。

赤い部分(ぶぶん)が、ひらがなの「め」にそっくりでしょう。
それもそのはず、ひらがなの「あ」は漢字の「安(あん)」からできたからです。そして、その「安」という漢字の中にある「女」という漢字から、ひらがなの「あ」の中の「め」にそっくりな部分(ぶぶん)ができたからです。
では、なぜ、「安」から「あ」ができたのでしょう?
そのわけは、漢字の「安」に「あ」という読み方(よみかた)があるからです。(末尾の補注1参照)
ひらがなができる前は、漢字の「安」で、日本語の「あ」という音(おん)を書きました。
その「安」の形が変化(へんか)して、ひらがなの「あ」ができたのです。

漢字の「安」の中には、漢字の「女」があります。
そう見ると、ひらがなの「あ」に漢字の「女」がかくれていると見ることができます。
(2)「ぬ」の中に「女」
ひらがなの「め」が「ぬ」の中にあります。見つかるかな?

赤い部分(ぶぶん)に、たしかに、ひらがなの「め」がありますね。
ひらがなの「ぬ」は、漢字の「奴」からできました。
では、なぜ、「奴」から「ぬ」ができたのでしょう?
そのわけは、漢字の「奴」に「ぬ」という読み方(よみかた)があるからです。(末尾の補注2参照)
ひらがなができる前は、漢字の「奴」で、日本語の「ぬ」という音(おん)を書きました。
その「奴」の形が変化(へんか)して、ひらがなの「ぬ」ができたのです。

こう見ると、ひらがなの「ぬ」にも、漢字の「女」がかくれていると見ることができます。
(3)「め」の中に「女」

これは、ひらがなの「め」です。
この中に漢字の「女」がかくれています。
見つかるかな?

赤色の「女」が見えますね。
それもそのはず。
ひらながの「め」は、漢字の「女」からできたのです。

むかし、まだ、ひらがながないころ、漢字の「女」で日本語の「め」という音(おん)が書かれていました。
では、なぜ、「女」という漢字で「め」という音(おん)をあらわすことができるのでしょう?
それは、漢字の「女」には、「め」という読み方(よみかた)があるからです。
例えば、「女神(めがみ)」の「女(め)」がその1例です。(末尾の補注3参照)
「女」の形(かたち)がだんだんと変化(へんか)して、ひらがなの「め」になったのです。

2 「あいうえお」と漢字
「め」と「あ」と「ぬ」だけでなく、ひらがなはどれも漢字からできました。
まずは、あ行(ぎょう)のひらがな「あいうえお」について、そのもとになった漢字を見ていきましょう。「→(やじるし)」のあとにあるのは、その漢字を続け書き(つづけがき)した文字です。

この中に、ひらがなの「う」のもとになった漢字があります。
どれでしょう?
見つかるかな。
答えは、
宇
です。「宇宙(うちゅう)」の「宇(う)」ですね。
3 か行・さ行のひらがな
つぎは、か行とさ行のひらがなを見てみましょう。
か行とさ行のひらがなは、「かきくけこ」と「さしすせと」です。
それらのもとになった漢字を見ていきましょう。
「→(やじるし)」のあとにあるのは、その漢字を続け書きしたものです。

この中に、「か」「く」「け」「す」「せ」のもとになった漢字があります。
どれでしょう?
見つかるかな?
答えは、「加」「久」「計」「寸」「世」です。
4 た行・な行・は行のひらがな
た行・な行・は行のひらがなは、「たちつてと」「なにぬねの」「はひふへほ」です。
それらのもとになった漢字を見ていきましょう。
「→(やじるし)」のあとにあるのは、その漢字を続け書きしたものです。

このうち、「た」「ち」「て」「と」のもとになった漢字はどれでしょう?
見つかるかな?
答えは、「太」「知」「天」「止」です。
見つかりましたね。
ではつぎに、「な」「に」「の」のもとになった漢字はどれでしょう?
答えは、「奈」「仁」「乃」です。
見つかりましたね。
では、「ひ」「ふ」「ほ」のもとになった漢字はどれでしょう?
答えは「比」「不」「保」です。
5 ま行・ら行・や・ゆ・よ・わ・を
次の漢字は、ま行・ら行のひらがなと「や・ゆ・よ・わ・を」のもとになった漢字15字です。
「→(やじるし)」のあとにあるのは、その漢字を続け書きしたものです。

この中に、「み」「も」「れ」「ろ」「や」「よ」「わ」のもとになった漢字があります。
見つかるかな?
答えは、「美」「毛」「礼」「呂」「也」「与」「和」です。
6 部分(ぶぶん)だけがひらがなのもとになった漢字:「利」と「部」
ほとんどのひらがなは、漢字全体(ぜんたい)の形(かたち)からできました。
ところが、「り」と「へ」の2つだけは、もとになった漢字全体ではなく、部分(ぶぶん)からできました。
(1)「利」から「り」ができた
「り」というひらがなは、漢字「利(り)」の右半分からできました。

これを見ると、ひらがなの「り」が「利」という漢字の右半分からできたことがわかりますね。
漢字の右半分のことを「つくり(旁)」と言います。
「利」という漢字の「つくり」は「りっとう」とよばれます。
漢字の左半分のことを「へん(偏)」と言います。
「利」の「へん」は「ノ+木」の形をしているので「のぎへん」とよばれます。
「利」という漢字は、「利用(りよう)」「便利(べんり)」などにつかわれます。
(2)「部」から「へ」ができた
「へ」というひらがなは、漢字「部」の右半分からできました。

「部」という漢字は、「部品(ぶひん)」「部分(ぶぶん)」などのように、「ぶ」と読まれるのがふつうです。
なのにどうして「へ」になるのか?
ふしぎな気がするかもしれませんね。
しかし、「部」という漢字には、「部屋(へや)」の「へ」のように、「へ」という読み方もあります。その「へ」という読み方を利用して、日本語の「へ」という音(おん)を「部」で書きあらわしたとかんがえられます。
7 「ん」のもとになった漢字
「ん」というひらがなのもとになった漢字は、「无」です。

「无」という漢字を見たことがある人は、ごくわずかでしょう。
それもそのはず、この漢字が日常生活(にちじょうせいかつ)でつかわれることはほとんどありません。
この漢字「无」の読み方は、漢字の「無」と同じで、「む」です。
意味(いみ)も「無」と同じで、「ない」という意味です。
【補注1】
「安土城(あづちじょう)」や「安部(あべ)」「安達(あだち)」などの場合の「安」の読み方は「あ」です。「安」という漢字の読み方には」、ほかにも、「安心(あんしん)」の「あん」や「安らか(やすらか)」の「やす」などあります。
【補注2】
「奴婢(ぬひ)」の「奴」の読み方は「ぬ」です。「奴」という漢字の読み方には、ほかにも、「悪(わる)い奴(やつ)」の「やつ」や、「奴隷(どれい)」の「ど」などがあります。「奴婢(ぬひ)」ということばの意味(いみ)は、「奴隷(どれい)」の意味とほぼ同じです。
【補注3】
「女」という漢字の読み方には、「め」のほかにも、「男女(だんじょ)」の「じょ」や、「女の子(おんなのこ)」の「おんな」などがあります。
<次回も漢字が楽しくなるコラムをお届けします! お楽しみに>
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『はじめてつかう漢字字典』に登場するめいちゃんとべるちゃんと一緒に、ひらがなを書いてみましょう。続きはぜひ、漢字字典を購入してやってみてくださいね。
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■読みや画数がわからなくても、絵から漢字を引くことができる 絵さくいん付き。
監修/村石昭三(国立国語研究所 名誉所員)
編著/首藤久義(千葉大学 名誉教授)
古代文字/浅葉克己 イラスト/坂崎千春+井上雪子
ブックデザイン/祖父江慎
規格 : 22×15cm 412ページ
ISBN : 9784577814468
学習指導要領完全準拠
小学校教育漢字1026字