執筆:青山誠
事例:上町しぜんの国保育園
保育における対話は言葉の上だけでの「問答」や「吟味」ではなくて、普段の関係性をもとにして行われます。言葉そのものも、保育の中では人と人との間に生まれてくるような気がしています。前回の1歳児同士のやりとりの場面に続いて、今回は3歳の子たちと保育者との場面を見てみましょう。
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おやつの後のこと。「かみのけ、しばってー」とYさんがやって来た。「どうやって縛る?」と聞くと、「んーと、ながいやつ」とのこと。
柳原(えり)「ひとつに縛る?」
Y「うん!」
Yさんの髪の長さだと全部縛れるかなぁ、なんて思いながらひとつに結んでみる。
Y「んー! こうじゃない! ながくて、えりちゃんみたいにしたいの!」
柳原「あー! Yさんの髪の長さだとちょっと難しい気がする……」
Y「んー‼ かみのばしたのに‼ ながくなったのに!」
柳原「前より長くなったよね! ハーフアップにしてみる?(自分の髪の毛をハーフアップに縛り直す)」
Y「これがいい」
Yさんの髪をハーフアップに縛る。
柳原「できたよー! Yさんの髪型こんな感じになってるよ(自分の髪型を見せながら)」
Y「うん! とこやさんやりたいー」
画用紙で髪の毛を作って床屋さんごっこをした。しばらくして……(私は髪型をひとつ結びに戻していた)
Y「ねーねー、やっぱさあ、えりちゃんのみたいにさあ、ひとつにながくむすびたい」
柳原「もう1回結ぼうか!」
ハーフアップをほどいてひとつに縛る。Yさんはひとつに縛った髪を触って、
Y「ちがーう‼ みじかいじゃん! ながくがいいの!(私の髪の毛を触りながら)こんなふうに!」
柳原「長くがいいのかあー、ちょぴっとだけ髪が短いのよねえ」
Y「もおー‼ ながくがいいのー!」
柳原「じゃあ、えりちゃん、さっきYさんがしてたみたいな髪型にしちゃおうかな!(自分の髪をハーフアップにし直す)」
Y「うん、おなじのがいいー」
Yさんもハーフアップにした。
Y「これでいい!」
そう言って遊びに戻った。このやりとりを見ていたKさん、Mさんが「おなじのにしてー」と言ってきたので、Kさん、Mさんもハーフアップにする。
M「みんなおんなじだね」
Y「Yもおんなじー」
K「みんなこのままでいよう、えりちゃんもかえないでね」
Mさんの帰る姿は見られていないけれど、KさんとYさんはハーフアップのまま帰った。
同じ髪型になったことでKさんとMさんとYさんが混ざり合ったというか、「同じだね」の言葉で繋がったような気がした。(柳原記)

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保育者を起点にして関係性が広がっていく、この年齢の保育によく見られるほほえましい場面です。Yさんの願いは、柳原さんと同じ髪型にすることでした。それは必ずしも「ひとつに縛ってある、長い髪型」でなくてもよかったようです。このことに途中で気付いて、柳原さんのほうから「おんなじ」になるように髪型を変えたのはナイスアイデアでした。
Mさんが言った「みんなおんなじだね」という言葉は、単に状況を言い表すだけではなくて、「おんなじでうれしいね」という心持ちまで表してくれたように感じます。きっと子どもたちは多くの場面でこんなふうに、心持ちを言葉にして感じ取ったり、分かち合ったりしているんだろうな、とこのエピソードを読んで感じました。こうした場面の自然な続きとして、子どもとの対話、ミーティングはあります。
イラスト:ナガタヨシコ
<編集部より>
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