執筆：青山誠
事例：上町しぜんの国保育園
今ひとつ、周りの子たちとの遊びに入っていけないUさん。みんながザリガニ釣りに行く相談をしているなかでも、「いきたくない」とのこと。ザリガニ釣りにも興味なさそうですが、何よりも、みんなと行くことに気乗りしない様子です。前回に続き、井上あさみさんがミーティングでそのことを話し合います。
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あさみ「Uさんはママとパパとなら行きたいけど、みんなとは行きたくないんだって。それってママとパパのことは好きだけど、Uさんはみんなのこと……」
ここまで口にしてしまったから、子どもから「きらい」というワードが出る。「みんな」というのもわかりづらいと思って個人名を出してみる。Uさんが嫌いではなさそうな子の名前をあげてみる。
あさみ「Uさん、Aさんのことは嫌いなの？」
Uさん、眉をひそめて「んー」と言う。嫌いとは言い切れない感じ。
あさみ「嫌いではないってこと？」
Uさん、うなずく。
あさみ「Rさんのことは？ Kさんは？ 嫌いじゃない？」
同じように、んー、と考えてうなずく。
あさみ「好きとか嫌いとかっていろいろあるよね。すっごい大好き！とか、まあまあ好きとか、普通とか、嫌いじゃないけど……とか」
「Uさんが行きたくなるためにはどうしたら？」と話していると、
はるか（保育者）「おべんとうに、Uさんの好きなもの入れてもらったら？」
Uさん「なんにもすきじゃない」
Kさん「えっ、ブドウもすきじゃないの!?!?」
Uさんは少し考えて、「ブドウはおうちのブドウがいい」とのこと。ブドウは好きということがわかる。Kさんも「えっ！」て言っちゃうくらい、ブドウが好きなのかな？って思った。「じゃあブドウをお弁当に入れてもらう!?」なんて話をしながら、ひとまずミーティングはおしまい。
Uさんとお昼ごはんを食べながら話す。私が紙にお弁当の絵を描く。おにぎりを描いて、ブドウを描こうとすると、Uさんがペンを取った。Uさんは私のペンを握って、丸を２つ書いた。トマトらしい。「ブドウは？」と聞くと、そこにブドウも書き足してくれた。「Uさん、明日のお弁当、これにする？ ブドウは何色？」と聞くと「むらさき！」と教えてくれた。
「じゃあ、あとでブドウ買いに行こう！」と話していると、Lさんも「いく！」と言う。Uさんもその勢いに乗って、「いく！」と。Uさんは、「ママにかってもらう〜」とも言っていたけど、「お仕事の後に買うの大変だろうから、あさみが買っておくよ」と提案すると、Uさんはうなずいた。降園時、Uさんは、一緒に描いたおべんとうの絵を持って帰った。「あすはいく」と言って帰って行った。（井上記）
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この事例を読んで、いくつかほかの投げかけも考えられるかなと思いました。「Uさんが行きたくないなら、１人で残る!?」（ここは保育体制にもよりますが）。「いっそのことザリガニ釣りをやめて、Uさんのやりたいことをみんなでやってみる？」（という極論をあえて持ち出してみる）。あらゆる選択肢を排除しないほうが対話は豊かに展開されます。このミーティングでも、あさみさんや周りの子によって、まずUさんの「いきたくない」気持ちがそのまま受け取られているからこそ、次の展開が生まれていきました。子どもは自分の気持ちとは違う意見も、「そうなんだね」と受け取ります。子どものほうがおとなよりもしなやかに対話しているようにも感じます。
保育者であるあさみさんの、子どもの気持ちにどこまでも寄り添いながらも、それに向き合う真剣さがあったからこそ、Yさんの気持ちがみんなに開かれたのだと思いました。
イラスト：ナガタヨシコ（https://www.instagram.com/nagata445）
＜編集部より＞
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執筆 青山 誠（社会福祉法人東香会 保育統括）
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96ページ 26×18㎝
ISBN 978-4-577-81571-7 108-34
