◆ 毎回、これからの変化のきっかけにつながるかもしれない保育に関する様々な事柄を取り上げながら、独自の視点から分析します。
よく「○○年問題」と言われますが、筆者は数年前から保育分野における「2025年問題」を言ってきました。なぜならば、この年から、「子ども・子育て支援制度」に基づく第3期 市町村子ども・子育て支援事業計画(地方版事業計画)が始まること、新たに国の「こども大綱」を踏まえた自治体こども計画(地方版こども計画)も始まること、「こども誰でも通園制度」が実施されること、保育DXに向けた対応が本格化することなど、かつてない大きな動きが一度に押し寄せると考えられたからです。
ただし、「2025年問題」と言っても、その年に何かがガラリと大きく変わるわけではなく、この年を1つの大きな節目として新たな動きが始まったり、局面が変わったり、次のステージに移ったりすることを意味しています。
具体的な例を挙げれば、厳密に2025(令和7)年が節目かどうかは別として、「こども誰でも通園制度」は今までにない全く新しい制度と言えます。2024(令和6)年の試行的事業、2025(令和7)年の法制度化(子ども・子育て支援法上の地域子ども・子育て支援事業)、2026(令和8)年度からの給付制度化による本格実施という流れを考えれば、「2025年問題」に含めることができます。
一方、「子ども・子育て支援制度」に基づく第3期 地方版事業計画は、まさに2025(令和7)年度から始まる重要な事業計画であり、待機児童対策が中心課題であった第1期計画、それを引き継いだ第2期計画とは一線を画すものだと考えられます。第1期・第2期計画と比べて、待機児童問題は大幅にトーンダウンし、むしろ教育・保育施設の定員割れや規模の縮小、統廃合、撤退、さらには未就園児への対応や多様な支援ニーズへの対応など、これまであまり想定していなかった課題への対応が求められます。
いわば量から質への転換を図るべき第3期計画であるはずなのですが、残念ながら多くの地方版事業計画ではそこまでの問題意識に基づいた計画とはなっていないようです。「2025年問題」と言っていい重要なテーマであったにもかかわらず、関係者にそこまでの意識が十分になく、従来計画の焼き直しの域を出なかったように思われます。
なお、保育DXについては、保育現場が実感できるような動きにまではなっていないため、「2025年問題」に含めてもピンとこないかもしれません。しかし、水面下では、「保育業務ワンスオンリー」や「保活ワンストップ」など保育DXの実装に向けた準備が着々と進んでおり、数年以内には目に見える動きになります。
他方、こうした「2025年問題」の次は、「2040年問題」が保育界にも影響を及ぼすのではないかと考えられます。こちらは、もっと大きな動きなので、わかりにくいかもしれません。
「2040年問題」とは、日本社会が直面すると予測される社会問題の総称で、少子高齢化や労働力人口の減少が引き起こす様々な社会的課題のことを指します。具体的には、第2次ベビーブームに生まれた団塊ジュニア世代が65歳を超え、総人口に占める高齢者の割合が過去最大の約35%に達するほか、少子化による生産年齢人口が急減する事態に陥ることです。
そこでは、高齢者の介護・医療・年金が極めて厳しい状況に置かれるだけでなく、地域社会の持続可能性にも赤信号が点りかねない危機的な状況が予想されます。介護や医療にとどまらず、保育分野においても人材確保が極めて厳しい状況を迎えると考えられます。
保育機能の維持・確保が切実な課題になるわけですが、それは単に保育の問題で済むことではありません。最近よく言われる多機能化という発想だけでも不十分です。言葉にすると簡単ですが、「地域共生社会」をキーワードに保育や子ども・子育て支援も含めて地域づくり、まちづくりがどこまでできるのか、“地域”という視点から全く新しい発想に立ったチャレンジが求められます。
その際、高齢化や少子化、人口減少のスピードなど、地域によって大きな差があることから、地域軸と時間軸という2つの軸を踏まえた対策を進めることが大切になります。何かのお手本や好事例を見て右にならえ式の手法は、もはや通用しません。それだけに、それぞれの自治体や地域の特性に応じたオリジナルの取り組みを構想し、実行できるのかどうかが、保育を含めて地域の命運を左右しそうです。
★「保育ナビWebライブラリー」保育のいまがわかる!Webコラム 吉田正幸の保育ニュースのたまご vol.124(5月15日号)で配信した記事です。
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