執筆:青山誠
事例:上町しぜんの国保育園
園の玄関には自動ドアがあります。開閉ボタンは高い位置にあるのですが5歳児は背伸びすると届いてしまう子もいて、そのボタンを何人かの子が触って開けたり閉めたりしていたことがありました。子どもたちは「でていくつもりもなかった」とのことですが、保育者の井上(あさみ)さんは怖いなと思って子どもたちとミーティングで話すことにしました。
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あさみ「おとなからお願いしたいことがあるの。玄関の自動ドアのボタンをピッて押して、ウィーンってなるの、知ってる?」
みんな「うん、うん」
あさみ「それを開けちゃったんだって。子どもだけで。怖いなって思っちゃったのよ。自動ドアの向こうはすぐ道路だし。車がびゅーん!って通ったら怖い」
わいわいがやがや話していると、Rくんが言いました。
R「ぼくはまえにさ、やっちゃダメなことやっちゃったけど、いいたくない」
K「ぼくとR、ちょっとたいへんなこと、やっちゃったことある」
R「ぼくはひとりでやっちゃったことある」
あさみ「おとなには『それ、こまるよー』って言われるけど、本当はやりたいんだよなあってことある?」
「ユーチューブ。みないでほしいっていうチャンネルがあって、おとなになったらみられるよっていわれるから、はやくおとなになりたい」
「ショートどうがをみてると、だめっていわれる」
「むかしはゲームよくやってたからいわれたけど、いまはあんましやらない」
「ぼくはゲームおこられない」
「ぼく、ユーチューブはみてない」
わいわいがやがや。
R「ぼくさ、ひとりのおとなにばれておこられたことあるよ。でもさ、おこるならいわない。おこったしゅんかん、いうのやめるからね」
あさみ「Rの、“怒る”って『こらーっ!!(怒った声と顔)』ってこと?」
R「うん」
あさみ「『あー……そりゃだめだよ』っていうのは?」
R「それはおこってない」
あさみ「じゃ怒らないと思う」
R「おこんないんだったらいう。ちゃんときいてよね? みんな」
K「くち、みんなとじて!」
R「しゃべんないで!」
「みみふさいでー!」「きこえないじゃん」「じゃ、いっこのみみだけ」
みんな、耳いっこと口元に両手を当てるポーズをする。
R「かいだんのとびらをかってにさ、いすもってきてあけちゃった」
(異年齢保育をしている私たちの園では、階段の扉は赤ちゃんが出ていかないように閉めている)
あさみ「あー。それから玄関に行ったの? それは自動ドアのと同じかもね。おとなのいないところだと、守れないから怖いよってこと」
O「じゃ、これでおわりだね」
H「はい、おわりーっ!」
おとながおとなになりすぎて、正しいこと言う人、それに従うべき、みたいな空気にはしたくなかった。やめてほしいことは伝えたいけど……この塩梅がすごく難しいなと思う。ただ話が進むにつれて、Rが「おこらないできいてよね」というのに対して、子どもたちが「わかった!」「じゃーこうしよ!」とか、「いーよ!(怒んない準備できてるよ!)」と答えたりしてて、子ども対おとなという構図だけではなくなっていったのかもなと、振り返っていて思った。おとなはおとなとしているけど、みんなとの中で混ざり合っている感じ。(井上記)

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子どもは思った以上におとなたちの思いを知っているし、おとなの顔色を見ています。子どもと対話するということは、おとなへの「忖度なし」の関係性が土台になっていること、それはミーティングの場面だけではなく、普段の保育の中でおとなが問われています。ミーティングを通して、いつのまにか子どもとおとなという差異や関係性が、子どもたち同士の一人ひとりの差異や関係性にまざっていったのは、何よりも保育者の井上(あさみ)さんに「子どもの声を聞こう」という姿勢があったからこそだと感じました。
イラスト:ナガタヨシコ
<編集部より>
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執筆 青山 誠(社会福祉法人東香会 保育統括)
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96ページ 26×18㎝
ISBN 978-4-577-81571-7 108-34