◆ 毎回、これからの変化のきっかけにつながるかもしれない保育に関する様々な事柄を取り上げながら、独自の視点から分析します。
最近、「スマートシュリンク」という言葉をしばしば耳にします。「スマートシュリンク」とは、人口減少を前提に、施設・人材・サービスを計画的に再編し、行政機能や規模を縮小しながらも、生活サービスの質とアクセスを維持するなど、住民の幸福度向上にも配慮したまちづくりの考え方のことです。「賢い縮小」とも呼ばれます。
スマートシュリンクという考え方は、「成長」や「拡大」といった旧来の右肩上がりの発想を捨てて、人口減少を前提に都市や地域を賢く縮小・再編し、生活の質を保ちながらコンパクトにしていく戦略と言い換えてもいいでしょう。
この発想に基づけば、人口減少は異常事態という捉え方ではなく、前提条件として受け止め、インフラや公共施設、居住エリアを集約し、維持コストを抑えつつサービス水準を守るという発想になります。つまり、「縮む=衰退」ではなく、そこに住む人々のウェルビーイングを維持・向上させることがベースになります。
スマートシュリンクの第一人者である小峰隆夫・大正大学客員教授(大正大学地域構想研究所)によると、スマートシュリンク論の要点として次の3つを挙げています。
◆ 日本の人口減少をストップさせることはもはや不可能だという認識をもつこと
◆ 人口に関係する諸政策については、背伸びをせず、身の丈に合った政策スタンスを心がけるということ
◆ 「人口が減っても、人々のウェルビーイングを高めて行くことはかなりの程度可能」という認識をもつこと
既に国や自治体でも、スマートシュリンクに向けた動きを加速させようとしています。例えば、今年7月に閣議決定した「骨太の方針2026」では、「人口減少下においても我が国の成長力と国民の安心が確保されるよう、少子化傾向の反転と人口減少に対応した社会経済の再構築の両面にわたる対策を推進する」と、スマートシュリンクの考えを示しています。
また、全国知事会議が今年7月に出した「鳥取宣言」でも、「人口減少社会においても、持続的に必要な行政サービスが提供できるよう、『縮小』の連鎖に陥らない『スマートシュリンク(賢い縮小)』の視点を取り入れ、効率的な行政サービス提供体制全体の再構築を目指し、国や地方の行政機関相互の役割分担の見直しを含めて、今後の地方のあり方について探求していく」と述べています。
このスマートシュリンクという考え方は、今後の保育政策を考える上でも重要な概念になると考えられます。こども家庭庁が一昨年12月に示した「保育政策の新たな方向性」では、第1の柱である「地域のニーズに対応した質の高い保育の確保・充実」の一環として、「人口減少地域における保育機能の確保・強化」が挙げられています。
そして、これに関連した政策課題として、「人口減少地域における保育機能の維持・確保」、具体的にはダウンサイジングや多機能化、合併・事業譲渡、統廃合、連携・協働などが今後の課題とされています。ごく一部の待機児童を生じる地域を除けば、多くの人口減少地域で保育の供給過剰が常態化し、「量の縮小」が大きな課題となっていきます。
ただし、そこにスマートシュリンクの考え方を導入すれば、単なる量の縮小(保育施設の削減)ではなく、保育機能の維持・確保・強化がポイントになります。言い換えれば、「この地域の子どもの育ちと子育て支援の機能をどう維持・強化するか」が問われるということです。機能の集約と多機能化、連携強化と言ってもいいでしょう。
例えば、地域の教育・保育・子育て支援の拠点となる機能集約型のハブと、地域内を広くカバーできる小規模・分散型のサテライトで構成する「ハブ・サテライト」モデルなどが考えられます。自治体にも、従来のようなざっくりとした需給調整ではなく、きめ細かい地域分析に基づいた需要予測と、それを踏まえた供給のための機能の集約・再編・ネットワーク化の検討が求められます。
保育・子育て支援の地域インフラをどこまで構築できるかが、保育分野のスマートシュリンクの成否を左右することになりそうです。
★「保育ナビWebライブラリー」保育のいまがわかる!Webコラム 吉田正幸の保育ニュースのたまご vol.157(10月1日号)で配信した記事です。
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