執筆：青山誠
事例：上町しぜんの国保育園
私たちの園の近くには城址公園という、世田谷の中では自然豊かな場所があり、子どもたちとよく虫捕りに行きます。階段が迷路のように木々の間を抜けていて、歩いているだけでワクワクします。3歳のAさんも、保育者の船曳（のん）さんと一緒に歩いていきます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Aさん「のんちゃん、みて。ありがいっぱいいる！」
のん「どれどれ？」
Nさんも一緒に3人で太い木の根があるところを行列で進むアリを眺める。
のん「ほんとうだね。ん？ これカナブンじゃない？」
アリのすぐ横にいたカナブン。
Aさん「え、ほんとだ。つかまえる」
そう言ってカナブンを虫あみでおおって、つかみ上げる。
Nさん「Nにもみして」
のん「このカナブン、キラキラしてるね」
Aさん「ほんとだ。ふくろにいれたい」
のん「袋、リュックのところだー。急いで戻ろ」
AさんもNさんも急いで坂道を下る。
Aさん「きゃーいたい、いたいよ」（カナブンにつかまれたので）
のん「Aさん頑張れ、あとちょっとで袋のところだよ」
痛い、痛いと言うAさんの顔はニヤリとしていた。そのままAさんにカナブンを持っていてもらうことにした。リュックを置いたところに着くと、Aさんがカナブンをもう１匹見つけた。
Aさん「かなぶんいっぱいいる」
のん「このカナブンもピカピカしているね」
Aさん「このかなぶん、もって」
のん「うん、いいけど」
そう言って２匹目のカナブンを受け取る。そのカナブンはもう動いていない。
のん「Aさん、このカナブン死んじゃってるよ」
Aさん「でもふたついるからたたかいごっことかできるよ」
そんな話をしながら袋に２匹のカナブンと石を入れるAさんを見つつ、ほかの子が捕まえたアオスジアゲハチョウを見たり、ほかの子と虫捕りをしたりしていると、遠くからAさんの声。
Aさん「のんちゃーん。このかなぶん、かなしいかおしてる」
その言葉でハッとさせられる。「死んじゃう」っていう表現をした私、なんか嫌だな。嫌だな、というかなんか強いかな。言葉として。
Aさんが「死」をどのくらい理解しているのかはわからないけれど、「かなしいかおしてる」と表現するAさんの言葉が、凄く考えるきっかけになった。
園に帰ると、最初に見つけたキラキラのカナブンを、ブロックのお家をつくって遊ばせたり、紙コップに入れて一緒にお昼寝したりした。ロッカーに入れて帰って、次の日はおやつのミカンのかけらをあげて、たくさん食べているカナブンをみんなで観察した。（船曳記）
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
子どもの言葉とおとなの言葉には違いがあります。おとなはそれまでの経験をもとにして、言葉によってその時々の体験を省略しています。子どもはその時々の体験と共に、言葉が生まれ、言葉にすることによってその体験をじっくり味わっているのかもしれません。このエピソードで言えば、これまでの経験から「死」という言葉でまとめていくおとなと、「かなしいかおしてる」という表現とともにその時を味わっている子どもと。船曳さんが立ち止まった「死」という言葉への違和感は、言葉そのものへの違和感というよりも、子どもの言葉を追い越していないかという気付きだったのではないでしょうか。子どもとの対話はこんなふうに、いつも子どもの世界にふれようとしてこそ、生まれてくるのだと思います。
イラスト：ナガタヨシコ（https://www.instagram.com/nagata445）
＜編集部より＞
保育実践コラムはいかがだったでしょうか？
『保育ナビブック 子どもと一緒につくる保育へ 10のステップでできる子どもたちのミーティング』（青山誠著）では、子どもたちとのミーティングを具体的な実践事例をもとにわかりやすく解説しています。「子どもの声を聴く」を深め、毎日の保育を子どもと一緒につくっていくためのヒントが満載です。ぜひお手にとってみてください。
現場の先生方の声から生まれた本！ 好評発売中！
https://book.froebel-kan.co.jp/book/detail/9784577815717
出版記念ミニ対談動画を配信しています！
保育ナビブック『子どもと一緒につくる保育へ 10のステップでできる子どもたちのミーティング』（青山誠・著）の「出版記念ミニ対談」（全３回）をYouTubeで配信中です。
ゲストに、無藤隆先生（白梅学園大学名誉教授）をお招きしたスペシャルな対談です。青山先生と無藤先生に、本書や「子どもたちのミーティング」について、たっぷりと語っていただきました！
これからミーティングに取り組んでみたい先生、今やっているミーティングをさらに深めていきたい先生など、現場の先生方のヒントになる内容が満載です。
ぜひ、本書と併せて活用ください！
子どもと一緒につくる保育へ
10のステップでできる子どもたちのミーティング
執筆 青山 誠（社会福祉法人東香会 保育統括）
税込 2,970円（税別2,700円）
96ページ 26×18㎝
ISBN 978-4-577-81571-7 108-34
