執筆:青山誠
事例:上町しぜんの国保育園
私たちの園の運動会、4、5歳児は自分たちで話し合って種目を決めていきます。アイデアを出して実際にやってみたり、また相談したり。おとなからは種目を決めるポイントを3つ出します。「自分がやりたいこと」「みんなでできること」「見ている人がわかるもの」。4、5歳児40人で案を出し合うのですが、60~80個くらいのアイデアが子どもたちからポンポン飛び出してきます。
4歳児のAさんが出したのは「だれがコーヒーのこなをいちばん(たくさん)たべられるか」というもの。子どもから出た案はそれがどんなに突飛なものであっても、おとなから一方的に却下はしません。今までやったことのないようなものはとりあえずやってみます。「だれがコーヒーのこなをいちばんたべられるか」も、保育者の石上さんとAさんたちと子どもらでやってみることになりました。
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Aさんは運動会の案出しで「だれがコーヒーのこなをいちばんたべれらるか」を出した。私(石上)はおやつの後にコーヒーの粉をコップに入れて保育室へ向かった。4、5歳の部屋にいた数人の子どもに声をかけてみる。
石上「これ、コーヒーの粉、Aさんが出したアイデアなんだけどね。舐めてみる?」
「なめる!」「おいしい!」「にが~」
Tさんは何度も舐めに来る。反応は人それぞれ。
次にホールへ。Kさんは舐めた瞬間に「うっ」と顔をゆがませてホールの水道へ走った。Sさんは「なめていいの?」とちょっとだけ舐めて「おいしい」と言ったものの、水道に向かった。次に2階に向かう。アイデアを出したAさんがいた。
石上「Aさん、これコーヒーの粉、舐めてみる?」
A「なめる!……うっ」
2階にいる子に声をかける。断る子、舐める子、おいしいと言ったり、まずいと言ったりする。多分その日に登園している大きい子は全員試したと思う。
次の日、ミーティングでAさんに「昨日コーヒーの粉、舐めたんだよね」と声をかける。Tさんは「おいしい」と言う。舐めた子の大半は「おいしくない」とのこと。Aさんは「やっぱりやらない」と言った。
ミーティングで案が出たものをおとなからの一方的な意見でむやみに消したくないなと思う自分と、「いやー、これはできないでしょー」と思う自分がいる。でもどうにか子どもたちと一緒に同じ地平で考えたいなとも思う。
コーヒーの粉を舐めるのも、「いやーできないな」と思うけど、できないなとAさんと一緒に納得したいなとも思うし、できるということを一緒に体感することも楽しみたいと思う。みんなともそのことを共有したいなと思う。今回は「しない」になったが、できる限りやってみながら運動会を楽しみたい。(石上記)

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子どもの声に耳を澄ますことが保育のスタートであり、保育者のその姿勢がミーティングの土台にもなります。でもそれはいつでも子どもの表情や行動から子どもの心持ちを推察することに限りません。このエピソードにある通り、子どもたちと一緒にわいわい遊びながら、子どもの「こんなことやってみたい」を(おとなとしては時におおいに迷いつつ)やってみちゃうことでもあります。子どもの声が聞こえてくるためには、おとなのほうにたっぷりとした遊び心が必要なのだと思います。
イラスト:ナガタヨシコ
<編集部より>
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ISBN 978-4-577-81571-7 108-34

