◆ 毎回、これからの変化のきっかけにつながるかもしれない保育に関する様々な事柄を取り上げながら、独自の視点から分析します。
先日、広島県で講演したのですが、その時依頼された演題が「ブーカの時代の教育・保育~子どもの何をどう育てるか~」というものでした。
このお題を受けた時、真っ先に頭に浮かんだのは「ブーカって何?」でした。その次に思ったのは、「こんな訳のわからないテーマで講演するのは無理!」でした。しかも、講演時間が5時間(キャリアアップ研修認定時間)もあったので、「聞いたこともないテーマで5時間もしゃべるのは不可能!」と思い、丁寧にお断りしようと考えました。
とはいえ、「ブーカ」を全く知らないままでは断りようもないので、インターネットで検索したところ、「ブーカ」とは「VUCA」という単語であり、V=Volatility(変動性)、U=Uncertainty(不確実性)、C=Complexity(複雑性)、A=Ambiguity(曖昧性)という4つの言葉の頭文字をとった造語であることがわかりました。
VUCAの何たるかが少し理解できたので、生成AIのChatGPTを使って「VUCA時代の保育とは何か」を聞いてみました。その結果、これまで講演でお話ししてきた内容の多くが、VUCAと密接に関連していることが確認できたので、これならVUCAの特徴や保育との関係を新たに書き加えて、最近のレジュメをアレンジすれば対応できると判断し、お引き受けしました。
ここで5時間に及ぶ講演のエッセンスを全てお伝えすることはできませんが、そのさわりの部分くらいは取り上げておきたいと思います。
VUCAを保育に引き寄せて捉えると、例えばVolatility(変動性)は少子化の進行や制度改革など、Uncertainty(不確実性)は将来予測の困難さ、家庭・地域社会といった子ども環境の変化など、Complexity(複雑性)は家庭・地域、福祉・医療・教育の重層的課題など、Ambiguity(曖昧性)は「正解」が1つでない保育・子育て観などと考えられます。
従って、保育現場では、「これまで通り」「前例踏襲」「1つの判断基準」が通用しにくくなっており、多様で柔軟な対応が求められます。園運営においても、明確な将来予測がたてにくいだけに、変化を前提とした「修正し続けるマネジメント」が欠かせません。
誤解を恐れずに言えば、VUCA時代の保育は、「正解を前提にした保育」から「共に考え創っていく保育」への転換が重要になります。その際、子どもに求められるのは、考える力や選ぶ力、諦めずに挑戦し続ける力、失敗から立ち直る力といった非認知能力です。これらの力は、遊びや生活、人とのかかわりの中でしか育たず、まさに保育の専門性が発揮される領域だと言えます。
と同時に、保育者は保育の実践者であるにとどまらず、臨機応変に判断し、対話し、共有し、支援する者としての役割が求められます。また、前例のない状況や事例への対応、保護者との価値観の調整、他職種・地域との連携・協働といった役割も大切になります。
また、保育現場では、業務が多様化・煩雑化し、想定外の状況が増える一方で、園全体としての判断基準が共有されないケースが多発することで対応が属人化し、保育者の精神的負荷が高まりつつあります。これは、処遇改善だけでは解決できない大きな課題です。
園の組織面では、従来の指示命令型マネジメントが通用せず、職員が「考えなくなる」「指示待ちをする」状況からいかに脱却するかが課題となります。制度面では、運用上の標準化を求める制度と、現実的な個別対応を求められる現場とのギャップが大きくなり、いかに柔軟に制度的な対応を進めるかが問われます。
そうした状況を迎える中で、VUCA時代の園運営で重要なのは、正解を前提にした計画より振り返りながら改善できる仕組みであり、そのためにも保育の営みを言語化し、現場の判断を支える環境を整えることです。
園長には、① 現場の判断を支える枠組みを示す、② 判断の背景や価値を言語化する、③指示より問いかけや対話、結果よりプロセスを重視する、といった役割が求められます。
言い換えると、施設管理者からマネジメントリーダーへの転換が重要であり、園長のリーダーシップが園の持続可能性を左右すると言ってもいいでしょう。
★「保育ナビWebライブラリー」保育のいまがわかる!Webコラム 吉田正幸の保育ニュースのたまご vol.141(2月1日号)で配信した記事です。
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