執筆:青山誠
事例:上町しぜんの国保育園
子どもは世界に開いて生きています。そこで交わされるコミュニケーションも多彩です。もしかしたら「子どもとの対話」という言葉こそ、子どもの多彩なコミュニケーションを「言葉」というものにだけ閉じ込めてしまうおそれがあるのかもしれません。0歳児の、人や世界との出会いのエピソードを見てみましょう。書いてくれたのは、保育者の阿部さんです。
ちょっと寝てすっきりしたNさん。私の膝の近くに座ってテラスで遊び出す。まだ少しドキドキしているけど、もう泣き声はしなくなってきた。お茶でも一口どう?とコップを口元に持っていく。口開けてくれるかな? くれないかな?………。
すると、Nさんの舌が顔を出す。Nさんの口がひらいた!! コップを口につけると、ごくっ、ごくっ、ごくっと、三口お茶を飲んだ。お茶、飲んでくれた! ほー。
じゃあそろそろごはんたべる? 私たちは部屋に入ってちゃぶ台の前に座る。ごはんが目の前に来るとイヤーっというように泣き出す。そうかそうか、まだごはんはだめなのね。じゃあごはんはいいから遊ぼうよ。
Nさんと私は、Nさんちの赤ちゃんスペースに座る。Nさんは今日ペットボトルのおもちゃに釘付けだった。Nさんの目の前でカラカラ、ザラザラとなんとなしに音を出していると、Nさんの足がツンツン動き出す。そうそう、この前ママといる時に、Nさん、うれしいと足が動いてた。
ツンツンとおもちゃを突いていたところからだんだんバタバタと動き出すNさんの足。ノってきた感じ。「あー」と声もあふれてきた。
遊ぶのはNさんのなかで大丈夫になったのね、と思ったから、じゃあ、その1つみたいにごはんを差し出してみようかなと思った。おもちゃに手を伸ばすNさんの視界に、しれーっとスプーンに乗せたごはんを差し出してみた。どうかな? やだってNさん怒るかな? なんてちょっとそわそわしていると、「ん…?」と見つめたあと、ごはんに手をぐーっと伸ばし、おかゆの汁のついたこぶしをあむーっと口を運んだ。
お? どうかな? するとまたNさんの手が伸びてきて、今度はスプーンの柄のところをしっかり狙って持つ。そのまま私の手と共にスプーンを自分のほうに引き寄せる。それと同時に、むあーっとNさんの口が開く。そして、はむっ。Nさんがたべたぁ。それから何口か、そのやり方で口におかゆを運んだ。Nさんのペースで口が開く。
「Nさんの口がひらく」。それはNさんが自分の世界への入り口を開けたことのように思う。最初はお茶。この人となら、なのか、この場所なら、なのかはわからないけど、お茶は飲んでもいいかなと思ったように、ちょっと考えてから口を開けた。
その次ごはんにいこうとしたら、ごはんを口に入れるほど、自分の世界に私(阿部)が入っていくのを認めてない!って感じですぐにムッと口を閉じて抵抗した。でもそのあと遊んでいたら、私がなんかおもしろいものを出したり、動かしたりするから、思わず「あー」と声があふれて口が開いた。
Nさんがどこまで委ねてくれていて、どこまでその世界に入っていいのか、それが口で表されているように感じた。
赤ちゃんの時期の口。運動機能が発展していくなかで口の中はとても敏感であり、様々なことを口を通して認知していく。口の中から人としての発達が始まるのだとすると、Nさんの世界とそこに出会う私も、口から始まるのかもしれない。(阿部記)
まるで阿部さんがむあーっと開いたNさんの口に食べられちゃったかのように、Nさんの世界に入り込んで、Nさんから見た世界を探っているようです。子どもとの対話って向こうに子どもがいて、こちらに保育者がいるというよりも、時にはこんなふうに、もうどっちがどっちかわからなくなりながら、生まれてくるものなのだなと感じました。保育ってへんてこりんで、おもしろいですね。
イラスト:ナガタヨシコ(https://www.instagram.com/nagata445)
<編集部より>
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