◆ 毎回、これからの変化のきっかけにつながるかもしれない保育に関する様々な事柄を取り上げながら、独自の視点から分析します。
非常に興味深い研究結果が、このほど明らかになりました。それは、東邦大学医学部の研究グループが行った研究で、「赤ちゃんの背中を撫でることで、乳幼児の自発的な動きが減り、おとなしくなる」というものです。
同大学のプレスリリースによると、「乳幼児期における養育者との身体的な触れ合いは、情緒や身体の健やかな発達を支える重要な経験と考えられている」ものの、どの身体部位への触れ合いが落ち着きやすいのか、どのような仕組みで生じるのかといったことはわかっていませんでした。
そこで、「母親と0~2歳児の15組に大学実験室に来てもらい、撫でる刺激が乳幼児に及ぼす作用について、自発運動量と心拍数に着目して検討」し、解析した結果、「母親が乳幼児の背中を撫でると、撫でる前と比べて頭部および下半身の運動量が大きく低下」し、心拍数の増加も起こらなかったことがわかりました。これに対して、「乳幼児の後頭部や腹部を撫でても、運動量の低下は見られ」ず、「乳幼児の後頭部を撫でると、撫でる前と比べて、心拍数が増え、覚醒度が上がるような生理変化が見られ」ました。
これについて、プレスリリースでは、「母親が乳幼児の背中を撫でる速さを計算したところ、平均で約10.5 cm/sとなり、心地よい触覚刺激の受容に関わるC触覚線維(注)を活性化する速さと同等であること」や、「これらの結果から、乳幼児は、後頭部・背中・腹部のうち、背中を撫でる刺激によって運動量が低下し、おとなしくなること」がわかったとしています。
(注)C触覚線維:皮膚に分布する感覚神経線維の一種で、撫で刺激に応答しやすく、心地よいとされる触覚や情動的な触れ合いの知覚に関与すると考えられている。
実験に際しては、母親に「乳幼児の後頭部、背中、腹部を1か所ずつ撫でてもらい」、「各身体部位を撫でる時間はそれぞれ1分間とし、撫でる前には、毎回1分間の撫でない時間を設けた」ほか、「母親には、実験中に乳幼児に話しかける、アイコンタクトをとる、体を揺らすことを控えてもらい、十分な接触圧でしっかりと撫でるように依頼した」そうです。
また、実験動物である仔マウスを対象に、さらに厳密な実験・測定(筋活動、心拍、脳波、ストレスホルモンの変化など)を行った結果、ヒトの乳幼児と同じような結果が見られたそうです。
これらの結果について、プレスリリースでは、「特に背中を撫でる刺激が子を落ち着かせること、また、その反応の背景には、生後早期の養育者との触れ合い経験によって育まれる仕組みがあることが示唆された」と説明しています。
さらに、「本研究により、生後早期の養育者とのスキンシップが、子どもの脳の発達やストレスへの対応力を育むうえで重要であることが、客観的な数値データとともに示された」として、「今後、触れ合いによって子どもが落ち着く仕組みの解明が進めば、根拠に基づく育児や保育の工夫の提案や、触覚過敏や不安などを抱える子どもの理解と支援につながることが期待される」と述べています。
ちなみに、同研究グループが6年前に行った研究では、生後4か月以上の乳児は両親にハグされると、心拍間隔増加率が高まりリラックスすることが示されたという実験結果を明らかにしています。しかも、初対面の女性にハグされた時よりも心拍間隔の増加率が高くなることがわかり、「ハグによって副交感神経が活性化し、リラックスすることが初めて実験的に示された」としています。
これらの研究は、「背中を撫でる」「ハグする」といった身近な養育者との触れ合いが、乳幼児の落ち着きやストレスの低下などに大きく影響していることを示唆しています。「はじめの100か月の育ちビジョン」では、アタッチメントの重要性を説いていますが、今回の研究結果がアタッチメントとどう関わるのか、保育における配慮や工夫にどうつなげられるのか、科学的な知見に基づいたさらなる研究成果が期待されます。
★「保育ナビWebライブラリー」保育のいまがわかる!Webコラム 吉田正幸の保育ニュースのたまご vol.152(7月15日号)で配信した記事です。
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