執筆:青山誠
事例:上町しぜんの国保育園
子どもたちとの対話は、本音を出せる環境から始まります。子どもたちが保育者の顔色を見ずに、のびのびと過ごせる環境があってこそ、子どもたちの声が保育の場に生き生きと響いて行きます。ただそうした環境があっても、いつでも子どもは「本音」を出しているのでしょうか。保育者の大川さんが3歳児のOさんを見守っている場面を見てみましょう。
ミーティングの前。OさんとMさんは、ソファーに自分の途中箱や、おもちゃを並べて自分たちの陣地を作り、遊んでいた。ミーティングに呼ばれたMさん。
Mさん「ミーティングいってくるから、まもっといてよ。あかちゃんきたら、だめ!!っていうんだよ?」と言いながら、つい立を置く。
Oさん「わかった!」と、Mさんを見送る。
しばらくは、シズさん劇場を見ながら、陣地を守りながら(だれも来ないけど)、Mさんの帰りを待って過ごしていたけれど、ご飯が始まり、お腹が空いて我慢ができなかったのか、Oさんは先に食べることにしたようだ。
だれも座っていない席にご飯を置くOさん。多分だけど、Mさんが来た時に、「ここあいてるよ!」って言うためだと思う。そこで、いつもよりゆっくりご飯を食べる。いつもならご飯をかき込む。それがなかったからそう思った。
Mさんがミーティングから帰ってきた。MさんはさっきOさんと陣取ったソファーでほかの子たちと遊ぶ。
そんなMさんをじっと見るOさん。何も言わずに一度ご飯の席に戻る。しばらくして、もう一回見に行く。やっぱりMさんは遊んでいる。Mさんは、Oさんを背にして、気付かない。陣取っていたつい立を運びながら、Oさん「これ、つかう〜」と私の目を見て言う。
私「いいよー」
つい立を背中のところに置いて、そのちゃぶ台を陣地のように使う。
そして、違うちゃぶ台でご飯を食べていたAさんに声をかける。
Oさん「Aさん~、ここあいてるよー!」
AさんはOさんのほうを見ない。
Aさん「うん~、Eちゃんとたべてるからあ……」
と小さな声でいう。
Oさん「え?」
私「Eちゃんとたべてるんだって~」
Oさん「じゃ、Eちゃんがいないとき、いっしょにたべよー? Eちゃんがいないとき、いっしょにあそぼう?」
Aさん「うん~いいよ~」
一連の流れを見ていたから、「Oさん切ない……」とまず感じた。そして、Oさんが守っていた、Mさんと陣取ったソファーを、Mさんがほかの子と遊んでいるのを見て、怒らず、そして、受け止め、ほかの子を誘う姿にびっくりした。Mさんだから言えなかったのか。ほかの子も大きい子だから言えなかったのか。
ただ、最近特定のだれかと一緒にいたいというOさんの思いと、その特定のだれかを探し続け、時には強引な姿を見てきたから、Mさんの思いとAさんの思いを受け止めたOさんの思いに、何とも言えない気持ちになった。
Oさんは自分は一緒にいたいという気持ちを飲み込んで、MさんとAさんの思いを受け止めたんだ。だけど、そのOさんの思いはきっと2人は気付いていないように見えた。だから、「切ない」と私は感じたのかもしれない。(大川記)
3歳というと思いっきり自分の気持ちを出したり、相手にぶつけてみたりというイメージもあります。でも、この時のOさんのように言いたいことを心に溜める場合もあります。子どもは自由闊達であると同時に、心の機微をこんなにも繊細に生きています。「本音を出す」とはいつでも言葉でありったけの気持ちを言うことではありません。子どもの心は表情や態度やちょっとした呟きにあらわれていて、保育者としてはそれらにいつでも耳を澄ましていたいものです。
一方で、このOさんのような場面では、保育者はどこまで介入していいのか迷います。子ども同士の関係性にでしゃばりすぎてしまえば、子どもたちの気持ちや関係の機微を追い越してしまいかねません。この場面での保育者の大川さんは、Oさんに心を寄せながらも、すぐに介入しようとはせずに、自身の心の内に溜めています。このエピソードを見ると、保育でよく言われる「待つ」というのが、とても集中のいる、積極的な行為だと気付かされます。ぼーっとして何もしないことではなく、常に子どもの心を自身の心に溜めていることこそ、保育者の「待つ」なのですから。
Oさんは心に溜めた気持ちをいつか伝える機会はくるのでしょうか。それともさらっと流れて、また新しい出来事に出会っていくのでしょうか。保育における「待つ」はこうして、言葉の前にある、子どもとの対話の連続です。
イラスト:ナガタヨシコ(https://www.instagram.com/nagata445)
<編集部より>
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